Main Story Act II: Catastrophe "Lucent Historia"

Last-modified: 2025-10-18 (土) 10:11:20
 
  Lucent Historia  
 

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Lucent Historia

実装:ver.6.0.0(24/11/21)

 

 20-1 

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日本語

汝は、神を信じるかね?

あるとき――それは巨神の体の奥深く、拍動を辞した心臓の直上で。
少女が一人、見渡す限りの赤の中へと踏み込んだ。到底、色など視認はできない暗さだ。
彼女は感じた、その液体が上に浮き上がるのを。雫が頬に触れ、上へと延び広がっていったのだ。
ぬるりとした頬の違和感に触れて見つめて……当然だろう、彼女は顔をしかめた。

この場所の暗さはきっと福音だったろう――直視せずに済むからだ。
今なお潜む、散らかされた残留物らのことではない。その怪物そのもの(・・・・)をだ。

もっとも彼女はその姿を見る必要もない。すでに三度ほど目視していたからだ。
さぞ克明に記憶に残っていたのだろう、思い返すだけでも震えていた。

だが――彼女はそれでも神の化身、創形師(シェイパー)だ。化け物退治は日常だ。
舌で声を編み、すぐに声を遠くへと送りつける――それは別地点にて待機する、己が弟子へと。

「準備、出来てる?」

答えは直ちに耳元に――「当然、そこまで馬鹿なの?」
「うるさい、集中」――すぐに、囁きで黙らせる。そのまま腰元の『気灯(あかり)』を点けると、
大気(エア)』から光を眼前に引いて、中空へ敷いた。やがて、陰ったギャラリーが照らされていく。

そこで、少女は古の壁画を見た――そこには太古の天使たちと『神』、
なにより、雄大な骨々――それは神聖なるリフォンの背骨にして、肋骨たち。

そして、獣をみた……狩るべき獲物、巨大な獣。遥か壁際、影に潜んでは、
長太い茎のようなモノ、その先についた目玉一つで、じっとこちらを伺っている。

八枚四対の翼に隠れた全体と、その目玉が視界に入るころには、
知らずと口から罵倒が漏れていた……そして、少女が動く。

(おぞ)ましい眼から放たれるプラズマのような熱線。空間が波打つほどの圧倒的力によって、
彼女の背後――飛び退いた彼女にとってもう両側だが――まるごと一面、吹き飛んだ。

一対の翼をばさりと広げ、歯はおろか唇さえもない異形は、青白い大口で咆哮した。

両手を上げ、創形師(シェイパー)はその叫声を防ぎ切ったが、
もろにその音を食らった周囲は床が割れ、ギャラリーの絵画が破散(はさん)する。
この場で暴れ狂うつもりの天剄(てんけい)はそのまま、眼にも止まらぬ速さで少女へ飛来した。

八枚四対すべての翼を広げ、引き締まった筋肉質な(からだ)を顕にする天剄(てんけい)
歪んだ肢体は見るまでもなく、人でも獣でもない――凹凸歪(おうとついびつ)な背骨が荒々しく反り返りつつあった。
そしてその時、突如として間際、天井が崩れた。

中空へと広がる、天井だった石材、木材、ステンドグラス……だが、全てが散らばり切る直前、
突如として天井だった全てが槍を形取り、更にその上には子どもの腕が見えるではないか。

わずか子どもの手にはあまりに大きなその武器を、(わらべ)は有り余る力で振り抜き切る。
巨槍は鮮やかにきれいに、天剄(てんけい)の胴はど真ん中は当然、背骨をも貫通していた。
爆散するような衝撃を受けた大地、縫い付けられたバケモノ。
青白く透けるような髪の童が、遥か上から射抜くような視線で凝視していた。

「さあ、おすわりだ、おすわりだよ」――そう、彼女は嘯いた。

バケモノは足掻いているとも、静止させられているとも言えた。
そして、一人目の創形師(シェイパー)が近づいて、その首元へと手を添えると、告げた。
「還りたまえ、あるべき『大気(エア)』へと。また他の天剄(てんけい)にその形を融かし給え」と。

大きくびぐんと脈打つと、ほどなくして、そのまま光り始めた異形の体。
光りながら、融けるように形を変えて、巨槍の頸木(くびき)から離れては、
小さな小さな光球となって、やがて少女の手のひらへと収まった。

振り向きざま、光球を扉の外に投げ捨てて、「この目立ちたがり!」と一言。
その言葉は遥か上、石に硝子に木で出来た巨槍――その石突(いしづき)に座る童へと向けられていた。
「まったく上出来だよ、エル。その調子で言い訳もよろしくね――天井の弁償なんて、ごめんだよ!」

「……おやおや、ネール。心配しないで、私たちの言葉はいつだって全て真実でしょう?」
童は可愛げな笑顔で告げるが、すぐさま投擲された木片がキュートなおでこに華麗に命中。
哀れ、童は瓦礫の山へと墜落する。――ぐっ、と拳を握り込む師がそこにいた。

「バケモノが現場を荒らしがちでよかった、上手くすれば信じてもらえるだろうし。
……うっわぁ、見てこの腕。全然食べかけじゃないか……」

「ひどいじゃないかネール!よりによっておでこかい!」
「あー、うるさいうるさい」

――わめく弟子(エル)には目もくれず、師匠(ネール)は生き残りを探し始めるのだった。

さて改めて、汝は神を信じるかね?……神々ではない、『神』だ。
汝は、己をはるかに超える唯一無二――『ただ一つ』の存在を信じるか?
その信条はどうであれ、神はいる。――そして死んだ。

此度ここで語らるるは、新たなる神の誕生であり、その経緯だ。
……だが、だからこそ問いは重要だ。時を経て永遠に繰り返し、こだまするものだからだ。
信念こそ、信条こそが全てを作る――それこそが男をも女をも動かし、真実(・・)を作らせる。
それがあってこそ、あのArcaeaも作られたのだ。

されども、リフォン(神/世界)――死んでいるかもしれないそれは、けれど存在こそしている。
変わらず万物の父であり、(しか)して全ての『神の手(シェイパー)』の父でもある。

……だが汝はもう知っている。神の手を知っている。

『対立』……否、それは彼女の名ではない。

第八の彼女。

そして、____。

日本語 (ラクリミラ介入時)

汝は、神を信じるかね?

あるとき――それは巨神の体の奥深く、拍動を辞した心臓の直上で。
少女が一人、見渡す限りの赤の中へと踏み込んだ。到底、色など視認はできない暗さだ。
彼女は感じた、その液体が上に浮き上がるのを。雫が頬に触れ、上へと延び広がっていったのだ。
ぬるりとした頬の違和感に触れて見つめて……当然だろう、彼女は顔をしかめた。

この場所の暗さはきっと福音だったろう――直視せずに済むからだ。
今なお潜む、散らかされた残留物らのことではない。その怪物そのもの(・・・・)をだ。

もっとも彼女はその姿を見る必要もない。すでに三度ほど目視していたからだ。
さぞ克明に記憶に残っていたのだろう、思い返すだけでも震えていた。

だが――彼女はそれでも神の化身、創形師(シェイパー)だ。化け物退治は日常だ。
舌で声を編み、すぐに声を遠くへと送りつける――勿論、別地点で待機する、そう、ワタシへと。

「準備、出来てる?」

答えは直ちに耳元に――「当然、そこまで馬鹿なの?」
「うるさい、集中」――すぐに、囁きで黙らせる。そのまま腰元の『気灯(あかり)』を点けると、
大気(エア)』から光を眼前に引いて、中空へ敷いた。やがて、陰ったギャラリーが照らされていく。

そこで、少女は古の壁画を見た――そこには太古の天使たちと『神』、
なにより、雄大な骨々――それは神聖なるリフォンの背骨にして、肋骨たち。

そして、獣をみた……狩るべき獲物、巨大な獣。遥か壁際、影に潜んでは、
長太い茎のようなモノ、その先についた目玉一つで、じっとこちらを伺っている。

八枚四対の翼に隠れた全体と、その目玉が視界に入るころには、
知らずと口から罵倒が漏れていた……そして、少女が動く。

(おぞ)ましい眼から放たれるプラズマのような熱線。空間が波打つほどの圧倒的力によって、
彼女の背後――飛び退いた彼女にとってもう両側だが――まるごと一面、吹き飛んだ。

一対の翼をばさりと広げ、歯はおろか唇さえもない異形は、青白い大口で咆哮した。

両手を上げ、創形師(シェイパー)はその叫声を防ぎ切ったが、
もろにその音を食らった周囲は床が割れ、ギャラリーの絵画が破散(はさん)する。
この場で暴れ狂うつもりの天剄(てんけい)はそのまま、眼にも止まらぬ速さで少女へ飛来した。

八枚四対すべての翼を広げ、引き締まった筋肉質な(からだ)を顕にする天剄(てんけい)
歪んだ肢体は見るまでもなく、人でも獣でもない――凹凸歪(おうとついびつ)な背骨が荒々しく反り返りつつあった。
そしてその時、突如として間際、天井が崩れた。

中空へと広がる、天井だった石材、木材、ステンドグラス……だが、全てが散らばり切る直前、
突如として天井だった全てが槍を形取り、更にその上には子どもの腕が見えるではないか。

わずか子どもの手にはあまりに大きなその武器を、(わらべ)は有り余る力で振り抜き切る。
巨槍は鮮やかにきれいに、天剄(てんけい)の胴はど真ん中は当然、背骨をも貫通していた。
爆散するような衝撃を受けた大地、縫い付けられたバケモノ。
青白く透けるような髪の童が、遥か上から射抜くような視線で凝視していた。

「さあ、おすわりだ、おすわりだよ」――そう、ワタシは言った。この頃のワタシも可憐だろう?

バケモノは足掻いているとも、静止させられているとも言えた。
そして、一人目の創形師(シェイパー)が近づいて、その首元へと手を添えると、告げた。
「還りたまえ、あるべき『大気(エア)』へと。また他の天剄(てんけい)にその形を融かし給え」と。

大きくびぐんと脈打つと、ほどなくして、そのまま光り始めた異形の体。
光りながら、融けるように形を変えて、巨槍の頸木(くびき)から離れては、
小さな小さな光球となって、やがて少女の手のひらへと収まった。

振り向きざま、光球を扉の外に投げ捨てて、「この目立ちたがり!」と一言。
その言葉は遥か上、石に硝子に木で出来た巨槍――その石突(いしづき)に座る童へと向けられていた。
「まったく上出来だよ、エル。その調子で言い訳もよろしくね――天井の弁償なんて、ごめんだよ!」

「……おやおや、ネール。心配しないで、私たちの言葉はいつだって全て真実でしょう?」
童は可愛げな笑顔で告げるが、すぐさま投擲された木片がキュートなおでこに華麗に命中。
哀れ、童は瓦礫の山へと墜落する。――ぐっ、と拳を握り込む師がそこにいた。

「バケモノが現場を荒らしがちでよかった、上手くすれば信じてもらえるだろうし。
……うっわぁ、見てこの腕。全然食べかけじゃないか……」

「ひどいじゃないかネール!よりによっておでこかい!」
「あー、うるさいうるさい」

――わめく弟子(エル)には目もくれず、師匠(ネール)は生き残りを探し始めるのだった。

さて改めて、汝は神を信じるかね?……神々ではない、『神』だ。
汝は、己をはるかに超える唯一無二――『ただ一つ』の存在を信じるか?
その信条はどうであれ、神はいる。――そして死んだ。

此度ここで語らるるは、新たなる神の誕生であり、その経緯だ。
……だが、だからこそ問いは重要だ。時を経て永遠に繰り返し、こだまするものだからだ。
信念こそ、信条こそが全てを作る――それこそが男をも女をも動かし、真実(・・)を作らせる。
それがあってこそ、あのArcaeaも作られたのだ。

されども、リフォン(神/世界)――死んでいるかもしれないそれは、けれど存在こそしている。
変わらず万物の父であり、(しか)して全ての『神の手(シェイパー)』の父でもある。

……だが汝はもう知っている。神の手を知っている。

『対立』……否、それは彼女の名ではない。

第六の彼女。

そして、ラクリミラ

English

Do you believe in God?

Deep within a giant's body, and above a heart no longer beating, a girl stepped into a pool of red. It was
too dark to see the color, but she felt the liquid rise like upward raindrops on her face. She touched it
after it touched her cheek, and shee frowned.

It was good that it was dark. Not for hiding what the monster in this place had left behind, but for the
sight of the monster itself. She knew it without needing to see it; she had seen it three times before
and even the memory of it made her shiver, yet―

―she was a Shaper with the hands of God; taming monsters was a matter of course. She shaped her
voice from her tongue and there sent it off to the place where her apprentice awaited her, asking:
"You're ready?"

An answer soon came back to her ears: "Idiot. Of course."
She whispered, "Shut up," and lit an Air-light hanging from her hip, swiftly pulling the illumination out of
it and in front of her―spreading it throughout the gallery.

Now she saw paintings of ancient angels.
She saw paintings of God.
She saw paintings of great bones―the hallowed Spine and Ribs of Lephon.
And she saw the great beast itself she was here to hunt, lurking at the far wall and staring steagy at her
with a single eye at the end of a long and thick stalk Its body was hiding behind eight feathered wings.
Seeing its eye, she cursed under her breath―and moved.

The beast's eye shone with plasmatic heat, and the area behind her―and now at her side―was
blasted back with immense and rippling power. The beast pulled away two of its wings, revealing
a month bereft of lips or teeth and―the pale thing―it screamed.

The Shaper threw up her hands and stopped its voice before it reachedher. That voice beat down
around her and cracked the floor. The frames of the gallery paintings ruptured, and the monster―
the Power who had chosen to rage here―flew fast toward her.

It spread all eight of its wings to reveal its lean and muscular body―contorted and non-human,

non-animal. Its ridged spine arced with violenced and there, and suddenly, the roof above burst apart.
The stained glass above, the stone and wood above―before fully falling, much of it coalesced into the

shape of a spear, and above that spear was the hand of a child.

The child threw the colossal weapon down with a great and pulsing force―clear through the Power's
spine. The beast exploded to the ground, and the pale-haired child above gazed down upon it with
piercing eyes.

And, "Now, now, sit," she said.

With the beast now struggling, but in a sense "stilled", the first Shaper went toward it and laid
a hand on its neck. "Return to the Air," she said, "and have the other Powers take care of you."
The beast's body then suddenly pounded and shone with light. Its shape compressed out the
hold of the spear, forming a small sphere of light before her palm. She looked backward, and
cast that light out of the door, and finally, "...Showy!" she said, glaring up at the child now seated
on the end of the gargantuan glass-stone-wooden spear. "Nice going, L, now we'll have to lie
about it. We can't pay for the roof!"

"my dear Nell, we have always been the arbiters of truth," was the child's reply, and she smiled
cutely. Her mentor threw a piece of wood at her head, and after it struck she fell down into the debris.

"Good thing Horrors like that tend to make a mess," said the mentor as her apprentice roared
with anger. "They'll probably actually believe us. Look at all these bodies... it didn't even finish
eating. Ugh."

"Nell, you just hit me!" said the child.

"Shut up," said the mentor, not looking at her student as she began looking through the place for survivors.

...Do you believe in God? Not gods, but "God". Do you believe in "The One" that exists beyond you?

Nomatter your belief: God is real. God is dead.

This, here, is the story about the birth of the new God.

...But, the question is important. It echoes through time, eternal.
Belief is what makes almost everything.
It makes men and women act. It makes "truth".
It made Arcaea.
But God, the world: "Lephon":
Dead though He might be, He still exists, and is Father to all, and of course to those
with the hands of God.

You know them.
The shapers.
"Tairitsu"―actually, that isn't her name.
The 8th.
And ―――― / //.

English(ラクリミラ介入時)(未記入)
 

 20-2 

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日本語

建物の外で、二人の少女は仕事の報酬を受け取った――そう、外でだ。
人々は『軌跡憑き(スペクター)』を好まない。特に、政府管轄施設への立ち入りは常に白い目の的だ。
今は、バケモノ退治の依頼をよこした役人が、諸説明や事後報告などを共有しているところだった。

ネールは木に寄りかかり、エルはその上の枝に腰掛けていた。
辺りには春でもないのに、コバルト色の花びらが『大気(エア)』において漂っている。
それを誰も、気に留めすらしない――リフォンではありふれた光景だった。

「……最後にお二人には、街にある『気廻炉(エアスピンエンジン)』の点検をお願いします」

「ああ……わかりました」――軽い笑顔で役人に答えると、ネールは歩き出す。
ただ、すぐに彼女は付け加えた――「エル。そういうのはやめようか」。

役人が視線を移せば青白い髪の少女と宙に小石……どうやら、狙いは近場の建物のとある窓のようだ。
少女は石を手放しつつ己の師を見ると、重力がなくなったかのように木から降りた。
――直前に、『べーっ!』と舌を突き出してから。

二人で組み始めてから三年――当時はまだ、エルは9歳だった。
今、ネールは17歳になるが、その娘の世話をするようになってからつい、
大人になったような気がしていた――なぜなら、娘は気まぐれで、予測不能で……面白かった(・・・・・)のだ。
ネールがエルを気に入るまで、そう時間は必要なかったし、
そのデコをド突きたくなるまでもまた、時間は必要なかった。
姉妹でも、家族でもない二人だが、絆がそれ以上であると感じられる局面はたしかにあった。

「また修理工ォ……?またなの……??」――歩きながら、エルの文句が閑静な街並みに零れた。
両手は後頭部に組み、目線は斜め上、『大気(エア)』を流し読んでいる……退屈な苦役以外を探して。

創形師(シェイパー)以外は、私達みたいに天剄(てんけい)に対抗出来ないからね。これも大事な仕事だよ」
持ち物から小さなタブレットを取り出し、側面のスイッチを入れながら、ネールはそう言った。
タブレットが『大気(エア)』を吸気し始めると、やがて画面が点灯する。
「正直、庭仕事の方が私も好きだけどね……ここ、両替所ないの?なんで支払いが硬貨(コイン)なのかな……」
「『第三テラ』の硬貨(コイン)とは!安心と信頼の貨幣経済!」――エルは笑っている。
先程の役人が言っていた内容のモノマネのようだった。

「エル、黙って。……貨幣経済の意味すら知らないでしょ」

さて汝らよ、聞き給え。
『第三テラ』という単語が出てきたが、総じて8つの『沃土(テラ)』が存在する。

それぞれの『沃土(テラ)』が惑星であり、全てがとある脊柱(スパイン)から広がっている。
そう、文字通り、世界(リフォン)の脊柱である。そこから伸びる肋骨もまた、守るためのもの。
(すなわ)ち、命なき神の(からだ)こそ世界(リフォン)であり、命の揺籠(ゆりかご)であり、ひいては全沃土(テラ)を一つに繋いでいるのだ――。

そうだ、これはとある本物の世界。冥界(てんごく)の類でも、人造の世界(それ)でもない。
道理があり、(ことわり)ある歴とした世界だ――壊れた心で編まれた、どこか(・・・)の世界とは違うのだ。
ここは旧き世界――創形師(シェイパー)らが総てを司りながら、やがて意義さえ失った場所。
ここは骸の世界――埒外の力と強大な存在を誇る巨人が一、その死の上に生い茂る生命の庭。

7つの円盤状の大地、つまり別々の惑星が7つ。平坦に広がるそれぞれが、棚板のように縦に連なり、
その最下部には異質な、満たされた水鉢(ボウル)のような形の一際大きな沃土(テラ)が一つ。
まるで土の胃袋のようなその沃土(テラ)を、リフォンの人々は『心臓(ハート)』と呼ぶ。

それが意味するところは一体――それもまた、重要な問いであり、その未知なる答えが世界を分ける。
もっとも、それも文化上の意味合いでもある。――この世(リフォン)は常に、この様相なのだから。

日本語 (ラクリミラ介入時)

建物の外で、二人の少女は仕事の報酬を受け取った――そう、外でだ。
人々は『軌跡憑き(スペクター)』を好まない。特に、政府管轄施設への立ち入りは常に白い目の的だ。
今は、バケモノ退治の依頼をよこした役人が、諸説明や事後報告などを共有しているところだった。

ネールは木に寄りかかり、エルはその上の枝に腰掛けていた。
地上より遥かに高いところで、『天剄』が百枚のコバルト色で花びらを生み出した。
そのくらいは日常さ、誰も気に留めやしない――けれどね?
一瞬だけ、その戯れに加わって、向きでも変えてやろうかとは思っていたのさ。

「……最後にお二人には、街にある『気廻炉(エアスピンエンジン)』の点検をお願いします」

「ああ……わかりました」――軽い笑顔で役人に答えると、ネールは歩き出す。
ただ、すぐに彼女は付け加えた――「エル。そういうのはやめようか」。

役人が視線を移せば青白い髪の少女と宙に小石……どうやら、狙いは近場の建物のとある窓のようだ。
少女は石を手放しつつ己の師を見ると、重力がなくなったかのように木から降りた。
――直前に、『べーっ!』と舌を突き出してから。

二人で組み始めてから三年――当時はまだ、エルは9歳だった。
今、ネールは17歳になるが、その娘の世話をするようになってからつい、
大人になったような気がしていた――なぜなら、娘は気まぐれで、予測不能で……面白かった(・・・・・)のだ。
ネールがエルを気に入るまで、そう時間は必要なかったし、
そのデコをド突きたくなるまでもまた、時間は必要なかった。
姉妹でも、家族でもない二人だが、絆がそれ以上であると感じられる局面はたしかにあった。

「また修理工ォ……?またなの……??」――ワタシは不満だったんだ。
あの単調過ぎる雑務は飽き飽きするほどにやった。騒々しい天剄の化け物がいたとしても、
彼らを手懐けて楽しむ方がもっと楽しそうだと考えていた。

創形師(シェイパー)以外は、私達みたいに天剄(てんけい)に対抗出来ないからね。これも大事な仕事だよ」
持ち物から小さなタブレットを取り出し、側面のスイッチを入れながら、ネールはそう言った。
タブレットが『大気(エア)』を吸気し始めると、やがて画面が点灯する。
「正直、庭仕事の方が私も好きだけどね……ここ、両替所ないの?なんで支払いが硬貨(コイン)なのかな……」
「『第三テラ』の硬貨(コイン)とは!安心と信頼の貨幣経済!」――エルは笑っている。
先程の役人が言っていた内容のモノマネのようだった。

「エル、黙って。……貨幣経済の意味すら知らないでしょ」

さて汝らよ、聞き給え。
『第三テラ』という単語が出てきたが、総じて8つの『沃土(テラ)』が存在する。

それぞれの『沃土(テラ)』が惑星であり、全てがとある脊柱(スパイン)から広がっている。
そう、文字通り、世界(リフォン)の脊柱である。そこから伸びる肋骨もまた、守るためのもの。
(すなわ)ち、命なき神の(からだ)こそ世界(リフォン)であり、命の揺籠(ゆりかご)であり、ひいては全沃土(テラ)を一つに繋いでいるのだ――。

そうだ、これはとある本物の世界。冥界(てんごく)の類でも、人造の世界(それ)でもない。
道理があり、(ことわり)ある歴とした世界だ――壊れた心で編まれた、どこか(・・・)の世界とは違うのだ。
ここは旧き世界――創形師(シェイパー)らが総てを司りながら、やがて意義さえ失った場所。
ここは骸の世界――埒外の力と強大な存在を誇る巨人が一、その死の上に生い茂る生命の庭。

7つの円盤状の大地、つまり別々の惑星が7つ。平坦に広がるそれぞれが、棚板のように縦に連なり、
その最下部には異質な、満たされた水鉢(ボウル)のような形の一際大きな沃土(テラ)が一つ。
まるで土の胃袋のようなその沃土(テラ)を、リフォンの人々は『心臓(ハート)』と呼ぶ。

それが意味するところは一体――それもまた、重要な問いであり、その未知なる答えが世界を分ける。
もっとも、それも文化上の意味合いでもある。――この世(リフォン)は常に、この様相なのだから。

English (未記入)
 

 20-3 

解禁条件 20-2の読了 & 楽曲「Renegade」のクリア

日本語

旅を強いられていた二人の便利屋は、じきに脊柱を抜けて第五沃土に向かいつつあった。
移動に使われる脊柱内部の洞窟は、常に骨の間や、手製の棚などに発明品が溢れかえっている。
旅行者もまた上下に昇り降り、左右に行き来し、混沌としていない日などないのがこの地であった。

ほとんどの人々は、『スピスラ』と呼ばれる乗り物を駆使してここをやり過ごす。
旧き神の躯、その内側をけたたましく上下する、ガタガタと揺れる莫大な鉄の塊である。
正直、心穏やかではない乗り物であるが、二人の少女は沃土間の移動を常にこれで行っていた。

少女たちはこの日、二人で隣り合った席を取ったらしい。ガタガタと断続的に昇り始めるスピスラ。
二人は創形師らしく、自分たちの周りと間に音の壁を作り出し、おしゃべりしやすい空間を作る。
……当然、そんな贅沢は到底望めない人々からの睨めつけるような関心も集めることにはなったが。

「つまり……御使い、の詩は、デタラメ、だって、いうの?」――エルは尋ねた。
カニなど多足甲殻類じみたフォルムでわさわさと登る移動機関では、揺れもひどい。
騒音は消せても、少女のその声もまた、文字通り揺れて弾んでいた。

少女の師は答える、少し跳ねながら――「デタラメ、とはいわないかな、第四(・・)による、予言の一つだよ。
かつての『光なき時代』、……あの、最悪な時期は、あったものの、偶然の一致、だと睨んでる、よ」

二人は話を続ける。

「第四は、もう死んだの?」――エルは尋ねる。

「ううん、……まだ、どこかで、生きてるはず。彼女も、『信興(しんこう)』も」――答えるネール。

「『信興(しんこう)』って、第二の?!私はいつ番号を手に入れるのかな?どんな名前かな~♪」――歌うエル。

「いつって……冗談だろう?そもそも『リフォンの囁き』が聞ける相当な幸運がまず必要だし。
どうせエルの耳も普通そのものだろう?……その眼だけがどうにも特別なのはそうだけど」

「私は、音が見えるん、だってば」

「はいはい、知ってるから……」

「ネール、なにか、歌って、くれない?」

「嫌だよ」

「……でも、ネール、私、ほんとに、究明者に、なれない、のかな」

「そうは言ってないさ。耳の件は冗談。けど、究明者になるのは無作為に近い。
誰もリフォンの考えることはわからない。だって、リフォンは死んだ」

「神、かあ」

「そして、神の声はもう1000年と聞かれていないし……」

――そのとき、移動機関(スピスラ)が止まった。
定期的に乗客に休息を与えるため、停止が義務付けられているのだ。

「ネール、みて」――エルは師に呼びかける。

ネールが目線を向けると脊柱は脊椎の狭間から、外宇宙が見えていた。

神の背中――その後ろには、無数というにも足りないほどの夥しく、巨大な糸がある。
金色に波打つ、『神糸(ストランド)』と呼ばれるその紐状のものは、
外宇宙へと遥かに広がり、宇宙の闇に伸びる。

――そして、それらは繋がっている。
つまりは世界(リフォン)の背中、すなわち神の背骨そのものに。

そして他方は、ほぼ全てが見えないほど遥か遠くの、いくつかは惑星のような世界にも繋がっている。
今日、リフォンと他世界を行き来する宇宙船は、金色の神糸(ストランド)に沿って、煌めきながら航行を行う。

これぞ、生命の揺籠――魔法のようではなく、奇跡である。
この現実も、すべての生命も、世界そのものでさえも、『神』から生まれ出るのだ。
それこそ、世界の姿であろう?――言ってみれば、あのArcaeaでさえも部分的にはそうだ。

ああ、足るを知らぬArcaeaよ……この大いなる歴史が、お前の内側へと編み込まれつつある。
お前につながる神糸(ストランド)はなくとも、そして世界(それ)が死んでいるとしても。

Arcaeaはリフォン(世界)の子ではなく、またリフォン(世界)がArcaeaの親を生んだわけでもない。
だが、ネールは殺された。ゆえに、かつての白き世界はまた一つ満ちるのだ……。

English (未記入)
 

 20-4 

※スチルイラストが付属しています。(Illustration : ??)
解禁条件 20-3の読了 & 楽曲「Rays of Remnant」のクリア

日本語

この物語で、ネールが死ぬことは――まだ――ない。
ネールの死はこれよりも後に過ぎないし、どうせ、また死ぬのだ。

――やがて二人は、リフォンの第二究明者(シーカー)を見つけた。神より賜りしその名は『信興(しんこう)』。

その天稟の創形師は、常に耀く大槍を携えた、吐息の印象的な声で話す奇妙な女性だった。
彼女が先行する『大気(エア)』の鎮圧業務を引き受け、二人が彼女を見つけたのは、第五沃土の端でのこと。
この地に降りて、一月ほど経った頃のこと、ちょうど二人が休暇に焦がれてしばらく経つ頃だった……

かの究明者(シーカー)の注意を引こうと試みる二人だったが、彼女の関心は『大気(エア)』――その意味不明な言葉だけ。
エルが脛を蹴ると、ネールもその脹脛を蹴り返した。
そして互いに顔を顰めた。
依然として『信興(しんこう)』は表情一つ変えることがない――が、その時、ようやく視線が二人へと向いた。
形の判然としない天剄(てんけい)の群れが、『大気(エア)』をかすめるようにして通り始める。

「わたしに、話しかけているの?」――『信興(しんこう)』は柔らかな声で、そう尋ねた。

「はい――?っはい!第四究明者のほうが望ましいかとは思います、思いますが!
それでも私達、なかなかやるんですよ!アハハ……ハハ……」

「彼女には、時間がないから」――『信興(しんこう)』は、若い創形師と眼を合わせてそう言った。

「あ、はい。第十一究明者も近頃復帰して、『心臓(ハート)』の自宅で休んでいるそうですが……」
「『大気(エア)』がささくれてて、沃土をまたいだ連絡をさせてくれないの」

ネールの発言を無表情に引き受け、『信興(しんこう)』は言葉を続けた。

「『気信(ネットワーク)』だって、まともには通らないでしょう。『大気(エア)』を飛び超えるようなもの。
実質出来ることなんて、正直ないはず……ううん」

「出来ることはあったんじゃないのかな」――割り込むエル。視線を向ける『信興(しんこう)』。
そのまま引かずに「なぜ何もしないのか」と、
追求する童に……『信興(しんこう)』が答えることは何もない。

「(何も出来ないからだよ、エル)」――傍らで見ていたネールは内心、答えを知っていた。
何か出来るとしたら、世界(リフォン)そのものだけなのだから……。

改めてその奇妙な女性とやり取りをしたあと、ようやく鎮圧任務の詳細が伝えられた。
『リフォンの息吹』こと『大気(エア)』を抑制し、沃土(テラ)の外にある、一種の力場に還すことのようだった。

そう、見えるものと見えぬものが入り混じり、
天剄(てんけい)絡み合う大渦が乱立する、地面なき異様な空間へ還すのだ。

全ての沃土に広がるその生命の海は、(リフォン)の背骨やその骨中に入り込むことはない。
だが、沃土全土へと濃密に広がりうるからこそ、あらゆる物を狂わせる。
この世界の外でも、似たような現象はあるが、自然現象から機械まで、全てに不具合を生じさせるのだ。

ある意味、霊魂や天使に依るポルターガイストのようなものが、ありとあらゆる規模や形、
事象として、見えたり見えなかったりする形で各地に表出し、世界を変質させているとも言える。
よって時として益にもなるが、害にもなり得るのである。

生命の海に満ちるのは、『大気(エア)』であり、文字通り天の(ちから)だ。
奇跡(ねがい)を形に出来る究明者でも、正攻法では荷が重く、尋常な力では歯向かうことすら叶わない。

かくして、二人の少女が抜擢されたというわけだ。

師弟二人は、第二の元から離れた場所にて動き始めた。
だが、天候はすぐに心許なくなりつつある。衣服をはためかせ、
手指や腕を渫うような突風が吹きはじめると、その頃にはもう、不可視の(・・・・)存在が現れていた。
暗雲が地面から立ち上り始め、雲々もまた二人の足元に生じつつあった。

じきに雨が空へと()る――次には、雷も落としてくるに違いない。
そう、空へと向けて(まるでさかさまに)……。

見るだけならば幻想的でさぞ面白いだろうその光景に反して、実態は単純作業だった。
エルといえばもう、雷より早く飽きた――弧を描く雷を捕まえ、
花の形にねじ上げたりしながら、据わった眼でいつもの質問をネールに投げかける。

「私たちがなんでこんなことを?」という質問も、十数回は聞いたら慣れたものだ。
流れるように無視してのけたネールだった――だが向こうも慣れたように追撃する。
「これは懺悔、それとも悔悛(かいしゅん)なの?」という鳴き声が彼女を追尾してくる。

「……エル。とりあえず考えずに、正しいことをやろう」――と、避けきれなかった質問を受け流す。

「やっても無駄なことをかい?それとも私たちの祖先のせい?私達の祖先はたしかにかつて、
人々の上に君臨していたさ――それのどこが悪い?そもそもやったのは私じゃないッ!
なぜだと言うんだ……教えてよ。なぜこんなことを強いられているんだ?
誰に証明しようっていうのさ――神だとでも?(リフォン)は死んでるじゃないか、それに……」

「エル、静かにし――」

「やったのは私達だ――創形師(シェイパー)こそが殺したんだ。そうだろう?」

ネールは両手を下ろし、生徒を見た――童はクスクスと笑っている。師からの視線は冷ややかだ。
傍らを突き抜けていく雷が、その創形師(ネール)の双眸を照らした。

「……ネールは美しいね――キミが本当に愚かなのが残念だよ」
彼女の睨めつける視線に、皮肉げな笑みを童は返した。

二人の周囲に『大気(エア)』が溢れ、周囲の温度が上がっていく。
天候の中、小さな炎が現れては消え、姿を持たない『天剄(てんけい)』が不可解な何かを囁いている。
エルは笑う、くつくつと笑う。ネールは、一歩を踏み出した。

師としてそのままむんずと襟元を掴み、片手で童を軽々と持ちあげると、
食いしばるようにしながら問い詰めた――「君ってやつはどうしていつも――?!」

だが、ネールは沈黙し、笑顔がエルから消えた――それもそうだ、もう1000年振りになる。

創形師(シェイパー)は「神を殺してやった」といい、ある者は「神はただ死んだ」と言った。
またある者は「自らを捧げ、神はこの美しき世界を作り給うた」とさえ言った。
そしてまたある者は、ともすればある者は……とにかく多くの推察、俗説、空説があった。
全てを通じて明らかなのは唯一の事実――すなわち、神の死だった。

にも関わらず、創形師たちは『神の声はいまだ健在である』と(のたま)った。
その驕り、その横暴、そして何より大それた背神行為に与した旨のほのめかし。
激怒した民たちは生ける創形師全てへの報いを天剄(てんけい)に祈り、そして当然天剄は聞き届けた。
予測不能な天剄にも、確実に言えることがある――天剄は祈りを聞き入れ、叶えようとするのだ。
かくして願いは受け入れられ、審判は下された――そして古の頃、神の手は世界(リフォン)からほぼ間引かれた。
生き残りわずかで、慎ましく暮らしつつ……けれどかつての驕りの代償を支払った。

だが、まったく敬虔なことに、創形師らは世界(リフォン)の心臓部にて神の声が聞けると宣った。
選ばれし土地にて、創形師のみが、選ばれし人々(われら)だけがそれを聞けると宣ったのだ。

――けれどここに、聖地から離れた創形師が二人、その声を聞いた。
リフォンは語る、語りかける……二人の少女に、来たるべき終末について。

日本語 (ラクリミラ介入時)

この物語で、ネールが死ぬことは――まだ――ない。
ネールの死はこれよりも後に過ぎないし、どうせ、また死ぬのだ。

――やがて二人は、リフォンの第二究明者(シーカー)を見つけた。神より賜りしその名は『信興(しんこう)』。

その天稟の創形師は、常に耀く大槍を携えた、吐息の印象的な声で話す奇妙な女性だった。
彼女が先行する『大気(エア)』の鎮圧業務を引き受け、二人が彼女を見つけたのは、第五沃土の端でのこと。
この地に降りて、一月ほど経った頃のこと、ちょうど二人が休暇に焦がれてしばらく経つ頃だった……

かの究明者(シーカー)の注意を引こうと試みる二人だったが、彼女の関心は『大気(エア)』――その意味不明な言葉だけ。
ワタシが脛を蹴ると、ネールもワタシの脹脛を蹴り返した。
このとき互いに一瞬、かなりえげつない凝視をしたんだ。
依然として『信興(しんこう)』は表情一つ変えることがない――が、その時、ようやく視線が二人へと向いた。
形の判然としない天剄(てんけい)の群れが、『大気(エア)』をかすめるようにして通り始める。

「わたしに、話しかけているの?」――『信興(しんこう)』は柔らかな声で、そう尋ねた。

「はい――?っはい!第四究明者のほうが望ましいかとは思います、思いますが!
それでも私達、なかなかやるんですよ!アハハ……ハハ……」

「彼女には、時間がないから」――『信興(しんこう)』は、若い創形師と眼を合わせてそう言った。

「あ、はい。第十一究明者も近頃復帰して、『心臓(ハート)』の自宅で休んでいるそうですが……」
「『大気(エア)』がささくれてて、沃土をまたいだ連絡をさせてくれないの」

ネールの発言を無表情に引き受け、『信興(しんこう)』は言葉を続けた。

「『気信(ネットワーク)』だって、まともには通らないでしょう。『大気(エア)』を飛び超えるようなもの。
実質出来ることなんて、正直ないはず……ううん」

「出来ることはあったんじゃないのかな」――割り込むエル。視線を向ける『信興(しんこう)』。
そのまま引かずに「なぜ何もしないのか」と、
追求するワタシに……『信興(しんこう)』は何も答えなかった。

「(何も出来ないからだよ、エル)」――傍らで見ていたネールは内心、答えを知っていた。
何か出来るとしたら、世界(リフォン)そのものだけなのだから……。

改めてその奇妙な女性とやり取りをしたあと、ようやく鎮圧任務の詳細が伝えられた。
『リフォンの息吹』こと『大気(エア)』を抑制し、沃土(テラ)の外にある、一種の力場に還すことのようだった。

そう、見えるものと見えぬものが入り混じり、
天剄(てんけい)絡み合う大渦が乱立する、地面なき異様な空間へ還すのだ。

全ての沃土に広がるその生命の海は、(リフォン)の背骨やその骨中に入り込むことはない。
だが、沃土全土へと濃密に広がりうるからこそ、あらゆる物を狂わせる。
この世界の外でも、似たような現象はあるが、自然現象から機械まで、全てに不具合を生じさせるのだ。

ある意味、霊魂や天使に依るポルターガイストのようなものが、ありとあらゆる規模や形、
事象として、見えたり見えなかったりする形で各地に表出し、世界を変質させているとも言える。
よって時として益にもなるが、害にもなり得るのである。

生命の海に満ちるのは、『大気(エア)』であり、文字通り天の(ちから)だ。
奇跡(ねがい)を形に出来る究明者でも、正攻法では荷が重く、尋常な力では歯向かうことすら叶わない。

かくして、二人の少女が抜擢されたというわけだ。

師弟二人は、第二の元から離れた場所にて動き始めた。
だが、天候はすぐに心許なくなりつつある。衣服をはためかせ、
手指や腕を渫うような突風が吹きはじめると、その頃にはもう、不可視の(・・・・)存在が現れていた。
暗雲が地面から立ち上り始め、雲々もまた二人の足元に生じつつあった。

じきに雨が空へと()る――次には、雷も落としてくるに違いない。
そう、空へと向けて(まるでさかさまに)……。

見るだけならば幻想的でさぞ面白いだろうその光景に反して、実態は単純作業だった。
エルといえばもう、雷より早く飽きた――弧を描く雷を捕まえ、
花の形にねじ上げたりしながら、据わった眼でいつもの質問をネールに投げかける。

「私たちがなんでこんなことを?」という質問も、十数回は聞いたら慣れたものだ。
流れるように無視してのけたネールだった――だが向こうも慣れたように追撃する。
「これは懺悔、それとも悔悛(かいしゅん)なの?」という鳴き声が彼女を追尾してくる。

「……エル。とりあえず考えずに、正しいことをやろう」――と、避けきれなかった質問を受け流す。

「やっても無駄なことをかい?それとも私たちの祖先のせい?私達の祖先はたしかにかつて、
人々の上に君臨していたさ――それのどこが悪い?そもそもやったのは私じゃないッ!
なぜだと言うんだ……教えてよ。なぜこんなことを強いられているんだ?
誰に証明しようっていうのさ――神だとでも?(リフォン)は死んでるじゃないか、それに……」

「エル、静かにし――」

「やったのは私達だ――創形師(シェイパー)こそが殺したんだ。そうだろう?」

ネールは両手を下ろし、生徒を見た――童はクスクスと笑っている。師からの視線は冷ややかだ。
傍らを突き抜けていく雷が、その創形師(ネール)の双眸を照らした。

「……ネールは美しいね――キミが本当に愚かなのが残念だよ」
彼女の睨めつける視線に、皮肉げな笑みを童は返した。

二人の周囲に『大気(エア)』が溢れ、周囲の温度が上がっていく。
天候の中、小さな炎が現れては消え、姿を持たない『天剄(てんけい)』が不可解な何かを囁いている。
エルは笑う、くつくつと笑う。ネールは、一歩を踏み出した。

師としてそのままむんずと襟元を掴み、片手で童を軽々と持ちあげると、
食いしばるようにしながら問い詰めた――「君ってやつはどうしていつも――?!」

だが、ネールは沈黙し、笑顔がエルから消えた――それもそうだ、もう1000年振りになる。

創形師(シェイパー)は「神を殺してやった」といい、ある者は「神はただ死んだ」と言った。
またある者は「自らを捧げ、神はこの美しき世界を作り給うた」とさえ言った。
そしてまたある者は、ともすればある者は……とにかく多くの推察、俗説、空説があった。
全てを通じて明らかなのは唯一の事実――すなわち、神の死だった。

にも関わらず、創形師たちは『神の声はいまだ健在である』と(のたま)った。
その驕り、その横暴、そして何より大それた背神行為に与した旨のほのめかし。
激怒した民たちは生ける創形師全てへの報いを天剄(てんけい)に祈り、そして当然天剄は聞き届けた。
予測不能な天剄にも、確実に言えることがある――天剄は祈りを聞き入れ、叶えようとするのだ。
かくして願いは受け入れられ、審判は下された――そして古の頃、神の手は世界(リフォン)からほぼ間引かれた。
生き残りわずかで、慎ましく暮らしつつ……けれどかつての驕りの代償を支払った。

だが、まったく敬虔なことに、創形師らは世界(リフォン)の心臓部にて神の声が聞けると宣った。
選ばれし土地にて、創形師のみが、選ばれし人々(われら)だけがそれを聞けると宣ったのだ。

――けれどここに、聖地から離れた創形師が二人、その声を聞いた。
リフォンは語る、語りかける……二人の少女に、来たるべき終末について。

English (未記入)
 

 20-5 

解禁条件 20-4の読了 & 楽曲「Breach of Faith」のクリア

日本語

少女たちは神の手だ。だが、それでもただの少女だ。いずれその手は塵へと還る。
その行動原理は至って単純だ、自分たちの世界を形作るいくらかの方法しか持っていない。
エルに限っては、世界の奥底まで見通す力を持ってはいたが。

彼女たちは天賦を下賜されるでもなく、究明者(シーカー)にも至らない。即ち、新たな創造物を生み出し得ない。
当然、二人は神へと歯向かうことも出来ない。……ただの少女にすぎない。
抗いようのない状況に立ち尽くす――どこかで聞き覚えのある状況だと、そう思わないかね。

数秒前まで自分たちが激怒していたことも忘れ、己と周囲を見回した。
なにかの間違いで、奇跡のように人語を介す天剄のことばをきいたのではとさえ思った。

だが、違う――それは暖かすぎた、明瞭過ぎた。
心に迫る親身さがあり、理屈を超えた実感を伴わせた。

すなわち――神で、そしてリフォンだった。
そして告げられたことは、そっくりそのまま同じこと。

「リフォンが、、第二究明者に脊柱で断ち切られるって……!?」

「ネール、君も聞いたのかい!?じゃああれは、あれこそが……
あれが、リフォン?!リフォンが話しかけてきたのかい??」

奇しくも、ネールが弟子へ尋ねたのも同時だった。
「エル、聞い……」――だが、剣幕に負けた。「あっ、ああ。うん、聞いた。そうだね、はい」

「じゃあ、あれは……あれはどういう意味だったの?『彼らが眠り、また目覚める時』……?」
――エルは、心もとない様子でネールに尋ねる。

沃土(テラ)を覆う、天剄のことかも……。
ほら、休む時といえば夜で、目覚めるときといえば明るい。恒星(たいよう)衛星(つき)も周囲にないリフォンでは、
天剄の動きだけが唯一の光源だからね。……そして神は二度言ったんだ。つまり――」

「――2日、ってこと?」

「2日……」

「「……」」

やかましい二人も、流石に静かになった。
活発なのは彼女たちの周囲、天剄の嵐だけ……代わり映えすることなく、荒れ狂っている。

「『信興(しんこう)』はおそらく、リフォンの背、その後ろへ向かわなくてはならないはず。
正面から行くには天剄の抵抗が強すぎるから……でも、『リフォンの脊柱を断つ』って、
そんなこと、現実的に可能なのかな。たとえ究明者(シーカー)の力でも、それは……」

エルは、己の師の腕にすっと手を置いた。いまだ、ネールはエルの服を片腕で掴んだままだったのだ。
手をそっと離してから、今いる第五沃土の端から、ふと外を眺めた。

「『信興(しんこう)』が動くまで2日……そうなるときっと、止められるのは私達だけ。
彼女が言ってたように、連絡は出来ないし――出来たところで、ね。私達だけじゃ……さ」

「必要ないさ」――そう返すエルに、ネールは困惑したような目線を投げた。

「リフォンは言った――『これこそ死、これぞ終焉』と。
私たち、何もしなくてもいいんだ。きっと、ここにいる必要すらないのさ」

「エル、まさか……」――そこで、師は黙った。

ネールは言う――「神糸(ストランド)を使ってここを離れても、脊柱が崩壊すれば、
その先にある世界ともども消える。どの神糸(ストランド)が切れたって、それは同じ」

「ああ。……でも、(リフォン)の声を聞いたんだ、きっと神糸(ストランド)もすぐに要らなくなる」

ネールの視線は厳しかった。

「エル。……私はここを離れないよ。仮にリフォンが私を寿いで、昇華することになったとしても、
ここで『信興(しんこう)』を止めることを選ぶ。君には、きっとわからないだろうね。
……わかってるよ、でもそれでもいいんだ。ここを離れたいなら、今のうちに行きなさい……一人でね」

ネールは振り返ると両手を掲げ、荒れ狂う『大気(エア)』を押し留める作業へと戻った。
ただ、そのとき――彼女は背後で見上げる少女に向かって、もう一言だけ告げた。

「エル、君は神になりたいんだね。なんとなく、君が信じる神というものも分かってる。
でも、神はリフォンそのもののことを言うんだ。力と衝動だけの存在じゃない。

つまり神とは救世主であり守護者なんだ。だからその加護が恩寵や祝福とよばれるんだよ」

けれど、エルは去らなかった。最後まで仕事を手伝うと、まもなく究明者が戻ってきた。
こうして二人は、『信興(しんこう)』とのなんとも言えない緊迫した状況をともに過ごすこととなるのだった。

ひと仕事終えて、第二究明者との別れをする時になっても、
二人はリフォンが語りかけた内容はもちろん、言葉を聞いたことすら言わなかった。
結局、あの独特な女性のことを二人は理解できなかったし、するつもりもなかった――怖かったのだ。

だが、御使いの唄にも予言されていない終焉に向き合うには、
再び彼女と対峙することからは避けられない。

そうして2日後、彼女とまた出会うときは……きっと、
二人は何としても彼女を止めて見せるだろう。

――世界まるごと生成する勢いで、全てという全てをつぎ込んで。

日本語 (ラクリミラ介入時)

ワタシたちは何時だって神の手先だ。だが、その時はまだただの少女だった。いずれその手は塵へと還る。
その行動原理は至って単純だ、自分たちの世界を形作るいくらかの方法しか持っていない。
エルに限っては、世界の奥底まで見通す力を持ってはいたが。

彼女たちは天賦を下賜されるでもなく、究明者(シーカー)にも至らない。即ち、新たな創造物を生み出し得ない。
当然、二人は神へと歯向かうことも出来ない。……ただの少女にすぎない。
抗いようのない状況に立ち尽くす――どこかで聞き覚えのある状況だと、そう思わないかね。

数秒前まで自分たちが激怒していたことも忘れ、己と周囲を見回した。
なにかの間違いで、奇跡のように人語を介す天剄のことばをきいたのではとさえ思った。

だが、違う――それは暖かすぎた、明瞭過ぎた。
心に迫る親身さがあり、理屈を超えた実感を伴わせた。

すなわち――神で、そしてリフォンだった。
そして告げられたことは、そっくりそのまま同じこと。

「リフォンが、、第二究明者に脊柱で断ち切られるって……!?」

「ネール、君も聞いたのかい!?じゃああれは、あれこそが……
あれが、リフォン?!リフォンが話しかけてきたのかい??」

奇しくも、ネールが弟子へ尋ねたのも同時だった。
「エル、聞い……」――だが、剣幕に負けた。「あっ、ああ。うん、聞いた。そうだね、はい」

「じゃあ、あれは……あれはどういう意味だったの?『彼らが眠り、また目覚める時』……?」
――エルは、心もとない様子でネールに尋ねる。

沃土(テラ)を覆う、天剄のことかも……。
ほら、休む時といえば夜で、目覚めるときといえば明るい。恒星(たいよう)衛星(つき)も周囲にないリフォンでは、
天剄の動きだけが唯一の光源だからね。……そして神は二度言ったんだ。つまり――」

「――2日、ってこと?」

「2日……」

「「……」」

やかましい二人も、流石に静かになった。
活発なのは彼女たちの周囲、天剄の嵐だけ……代わり映えすることなく、荒れ狂っている。

「『信興(しんこう)』はおそらく、リフォンの背、その後ろへ向かわなくてはならないはず。
正面から行くには天剄の抵抗が強すぎるから……でも、『リフォンの脊柱を断つ』って、
そんなこと、現実的に可能なのかな。たとえ究明者(シーカー)の力でも、それは……」

エルは、己の師の腕にすっと手を置いた。いまだ、ネールはエルの服を片腕で掴んだままだったのだ。
手をそっと離してから、今いる第五沃土の端から、ふと外を眺めた。

「『信興(しんこう)』が動くまで2日……そうなるときっと、止められるのは私達だけ。
彼女が言ってたように、連絡は出来ないし――出来たところで、ね。私達だけじゃ……さ」

「必要ないさ」――そう返すエルに、ネールは困惑したような目線を投げた。

「リフォンは言った――『これこそ死、これぞ終焉』と。
私たち、何もしなくてもいいんだ。きっと、ここにいる必要すらないのさ」

「エル、まさか……」――そこで、師は黙った。

ネールは言う――「神糸(ストランド)を使ってここを離れても、脊柱が崩壊すれば、
その先にある世界ともども消える。どの神糸(ストランド)が切れたって、それは同じ」

「ああ。……でも、(リフォン)の声を聞いたんだ、きっと神糸(ストランド)もすぐに要らなくなる」

ネールの視線は厳しかった。

「エル。……私はここを離れないよ。仮にリフォンが私を寿いで、昇華することになったとしても、
ここで『信興(しんこう)』を止めることを選ぶ。君には、きっとわからないだろうね。
……わかってるよ、でもそれでもいいんだ。ここを離れたいなら、今のうちに行きなさい……一人でね」

ネールは振り返ると両手を掲げ、荒れ狂う『大気(エア)』を押し留める作業へと戻った。
ただ、そのとき――彼女は背後で見上げる少女に向かって、もう一言だけ告げた。

「エル、君は神になりたいんだね。なんとなく、君が信じる神というものも分かってる。
でも、神はリフォンそのもののことを言うんだ。力と衝動だけの存在じゃない。

つまり神とは救世主であり守護者なんだ。だからその加護が恩寵や祝福とよばれるんだよ」

けれど、エルは去らなかった。最後まで仕事を手伝うと、まもなく究明者が戻ってきた。
こうして二人は、『信興(しんこう)』とのなんとも言えない緊迫した状況をともに過ごすこととなるのだった。

ひと仕事終えて、第二究明者との別れをする時になっても、
二人はリフォンが語りかけた内容はもちろん、言葉を聞いたことすら言わなかった。
結局、あの独特な女性のことを二人は理解できなかったし、するつもりもなかった――怖かったのだ。

だが、御使いの唄にも予言されていない終焉に向き合うには、
再び彼女と対峙することからは避けられない。

そうして2日後、彼女とまた出会うときは……きっと、
二人は何としても彼女を止めて見せるだろう。

――世界まるごと生成する勢いで、全てという全てをつぎ込んで。

English (未記入)
 

 20-6 

※スチルイラストが付属しています。(Illustration : ??)
解禁条件 20-5の読了 & 楽曲「Lament Rain」のクリア

日本語

冥雹(ひょう)が積もった影地(アンブラル)26番を通り、沈下山脈を超え、
凍てついた首都『ノーン』を過ぎて、冷たい『大気(エア)』に悩まされながら。

少女たちは第五沃土各地を歩き、登り、飛行し、ようやく脊柱近くの門前街へとたどり着いた。
合法とはいえない進入路を見出すと、なんとかリフォンの背骨へと忍び込む。
なるべく穏便に行こうとも思ったが、急ぐ身で選べる手段は限られすぎていたのだ。
仮に創形師(シェイパー)の力を以て不可視の姿をとろうとしても、透明というには不透明さが勝ちすぎる。

だがそれでも、二人はなんとか前へと進んだ結果――二人は今、こうして『神』の後ろを取っていた。
ここでは、幾千もの神糸(ストランド)が煌めき棚引きながら、自律的に酸素を作り出し、
全宇宙へと供給していく――少なくともこの場所、『神の背』では。

それは、脊柱から波打ちながら伸びる巨大な繊維で、まるで、黄金の森だった。
現実味のない耀きを帯びたその大槍を振るうその女は、すでにそこにいた。
第二究明者『信興(しんこう)』は今、二人の少女を見つめていた。

気だるげな目で、彼女は口を開いた――
「……二人、知ってる顔ね。なぜここへ?遥かなる外へと旅立つ船でも見に?」
だが、二人は応えない……なによりその態度こそ雄弁だったのか、緩やかに彼女は頷いた。

「そう――(リフォン)があなた達に教えたのね……」

ネールは尋ねる――「『信興(しんこう)』さん……これは、(リフォン)の命令ですか?」

「これは(かみ)に必要なもののはず――けれどきっと、あなたの聞きたい答えは私にない」
信興(しんこう)』はそう応えながら、悲しげに首を振った。

「その通りだね」――エルが応えると、『信興』もまた彼女に向かって頷いた。

究明者は言った――「リフォンの()は、残酷すぎる奇跡」と。

「――この世界しか知らない二人は、きっと(かみ)の愛こそが全てだとさえ思ってる。
もっといえば、彼の望みがあるからこそ、今生きているとさえ思っていても不思議はない。
つまり、君たちはリフォンの奴隷で、リフォンもまた君たち全ての奴隷とも言える。

……でも、そんなの――あまりにも異常。

君たちが想像するよりも、きっと遥かに最悪なほどに。

……でも、そうある必要なんてない」

――その直後、『信興(しんこう)』が掲げた槍はあまりに異質だった。

あまりの異質さに身を強張らせるネールと、刃を凝視するなり反射的に身を引くエル。

大槍(それ)』は明らかにリフォン製ではなく、
その不透明な刃先は現実空間に存在すらしていない。

それはまるで、世界そのものを切り裂き続けているような異様さ。
エルからすれば、見ているだけで目を斬りつけられる感覚さえ覚えるシロモノだった。

そう、『大槍(それ)』は死を齎す槍ではなく――消滅を齎すために()たれた武器。

信興(しんこう)』は告げる――「計画は教えない……あなた達が知るのは『再誕(リバース)』という結果だけ」
「数え切れないほどの死者を出してもですか……?」――尋ねるネールの声は、震えていた。

「壁の落書きを消すだけのこと――書かれていた物を覚えていなくても問題はない」

……耐えきれなかったネールはもう、射出されたかのように駆け出していた。

肺から引き抜くような息吹。
呼び起こされる嵐の数々。
点火されるマッチに、広がっていく炎。
威力と力量だけが全ての――刺し貫くように押し出されるエネルギー。

これが創形師同士の戦闘だった。
『全て』を駆使した、全力戦闘だ。

……もっとも、これを『戦い』と呼ぶのはフェアではなく、事実でもない。

おもむろに『信興(しんこう)』がネールへと指を向ける――
ただそれだけの行動で、遥か後方へと若い少女は激しく吹き飛ばされたのだから。

ネールはリフォンの脊柱に強烈に衝突した――すぐに血の味が口に広がる。
震える体はほとんど動かせなかったが、顔を上げると『信興(しんこう)』が弟子の首へと手をかけるのが見えた。
瞬時に駆け巡る思考と感情に、思わず絶叫したくなった。
だが、彼女は祈った……そう、祈ったのだ。

大抵の場合、必要なだけでは奇跡に届かない、望むだけでも不十分だ。
運命と呼ばれるものを捻じ曲げうるのは奇跡かもしれないが、
ときに奇跡というものは、懐で永らく暖められた種から実るものでもある。

努力と熱意の種がやがて実り、明くる日には広く知れ渡るかもしれない。
博識で勤勉な者が語りかけるなら、神はお聞きくださるかも知れない。
――そう、奇跡に相応しい者には、信仰さえ不要なのだ。

だが、ネールは神を信じていた。心から敬虔(けいけん)に。

もしかしたらそれこそ、私にリフォンの声を届けさせたのだろうか。
……そう、彼女に思わせたのかも知れない。

リフォンには謎がある――1000年の間、リフォンは何人にも話しかけなかった。
(リフォン)が死んだのは実に2000年以上も(・・・)前のこと――以来、(かれ)は何を欲し、何を願うのか?

――なぜ今になって、(かれ)はネールに語りかけたのだろう。
――なぜ1000年も前、(かれ)は『信興(しんこう)』に語りかけたのか?

きっとそれは、とある『到達点』のためだろう――結局、汝ら全てに神の筋書きはあるのだから。

ネールはそして、再び(かれ)の声を聞いた。
その声色は彼女へと染み入り、後ろの脊柱は熱を帯びていた。
リフォンは心奥、響き渡る『何か』に力強く呼応する、ネールの鼓動。
その眼と舌は変質し、その手は神の権能の一端を宿している――そして『号名』が下賜された。

そのとき、第二は呼吸を忘れた――眼前、旧き骨格から溢れ出す耀きを見て。
揺らめく神糸(ストランド)の向こうを注視すれば、そこには新たな『連番』が見えていた。
エルはこの絶好の機会を逃すことなく、静止したままの究明者を空気圧で押しのける。

そうして、二人は再び神を見た。
金色の糸々に包まれて、知り得ぬ過去と現在、未来と、
さらにその果ての姿を周囲に映し出す、ネールの姿がそこにあった。

(リフォン)は彼女に、『 永久に努め給え』と告げた。
彼女――ネールこそが第八究明者:『慈哀(じあい)』。

癒え始める彼女の体、そしてその眼は第二へと注がれていた。

――新たなる『神』の誕生ののち、再び(かれ)の声は引いていった。

日本語 (ラクリミラ介入時)

冥雹(ひょう)が積もった影地(アンブラル)26番を通り、沈下山脈を超え、
凍てついた首都『ノーン』を過ぎて、冷たい『大気(エア)』に悩まされながら。

少女たちは第五沃土各地を歩き、登り、飛行し、ようやく脊柱近くの門前街へとたどり着いた。
合法とはいえない進入路を見出すと、なんとかリフォンの背骨へと忍び込む。
なるべく穏便に行こうとも思ったが、急ぐ身で選べる手段は限られすぎていたのだ。
仮に創形師(シェイパー)の力を以て不可視の姿をとろうとしても、透明というには不透明さが勝ちすぎる。

だがそれでも、二人はなんとか前へと進んだ結果――二人は今、こうして『神』の後ろを取っていた。
ここでは、幾千もの神糸(ストランド)が煌めき棚引きながら、自律的に酸素を作り出し、
全宇宙へと供給していく――少なくともこの場所、『神の背』では。

それは、脊柱から波打ちながら伸びる巨大な繊維で、まるで、黄金の森だった。
現実味のない耀きを帯びたその大槍を振るうその女は、すでにそこにいた。
第二究明者『信興(しんこう)』は今、二人の少女を見つめていた。

気だるげな目で、彼女は口を開いた――
「……二人、知ってる顔ね。なぜここへ?遥かなる外へと旅立つ船でも見に?」
だが、二人は応えない……なによりその態度こそ雄弁だったのか、緩やかに彼女は頷いた。

「そう――(リフォン)があなた達に教えたのね……」

ネールは尋ねる――「『信興(しんこう)』さん……これは、(リフォン)の命令ですか?」

「これは(かみ)に必要なもののはず――けれどきっと、あなたの聞きたい答えは私にない」
信興(しんこう)』はそう応えながら、悲しげに首を振った。

「その通りだね」――エルが応えると、『信興』もまた彼女に向かって頷いた。

究明者は言った――「リフォンの()は、残酷すぎる奇跡」と。

「――この世界しか知らない二人は、きっと(かみ)の愛こそが全てだとさえ思ってる。
もっといえば、彼の望みがあるからこそ、今生きているとさえ思っていても不思議はない。
つまり、君たちはリフォンの奴隷で、リフォンもまた君たち全ての奴隷とも言える。

……でも、そんなの――あまりにも異常。

君たちが想像するよりも、きっと遥かに最悪なほどに。

……でも、そうある必要なんてない」

――その直後、『信興(しんこう)』が掲げた槍はあまりに異質だった。

あまりの異質さに身を強張らせるネールと、刃を凝視するなり反射的に身を引くエル。

大槍(それ)』は明らかにリフォン製ではなく、
その不透明な刃先は現実空間に存在すらしていない。

それはまるで、世界そのものを切り裂き続けているような異様さ。
エルからすれば、見ているだけで目を斬りつけられる感覚さえ覚えるシロモノだった。

そう、『大槍(それ)』は死を齎す槍ではなく――消滅を齎すために()たれた武器。

信興(しんこう)』は告げる――「計画は教えない……あなた達が知るのは『再誕(リバース)』という結果だけ」
「数え切れないほどの死者を出してもですか……?」――尋ねるネールの声は、震えていた。

「壁の落書きを消すだけのこと――書かれていた物を覚えていなくても問題はない」

……耐えきれなかったネールはもう、射出されたかのように駆け出していた。

肺から引き抜くような息吹。
呼び起こされる嵐の数々。
点火されるマッチに、広がっていく炎。
威力と力量だけが全ての――刺し貫くように押し出されるエネルギー。

これが創形師同士の戦闘だった。
『全て』を駆使した、全力戦闘だ。

……もっとも、これを『戦い』と呼ぶのはフェアではなく、事実でもない。

おもむろに『信興(しんこう)』がネールへと指を向ける――
ただそれだけの行動で、遥か後方へと若い少女は激しく吹き飛ばされたのだから。

ネールはリフォンの脊柱に強烈に衝突した――すぐに血の味が口に広がる。
震える体はほとんど動かせなかったが、顔を上げると『信興(しんこう)』が弟子の首へと手をかけるのが見えた。
瞬時に駆け巡る思考と感情に、思わず絶叫したくなった。
だが、彼女は屈服した……そう、祈ったのだ。

大抵の場合、必要なだけでは奇跡に届かない、望むだけでも不十分だ。
運命と呼ばれるものを捻じ曲げうるのは奇跡かもしれないが、
ときに奇跡というものは、懐で永らく暖められた種から実るものでもある。

努力と熱意の種がやがて実り、明くる日には広く知れ渡るかもしれない。
博識で勤勉な者が語りかけるなら、神は聞くだろうさ
――そう、奇跡に相応しい者には、信仰さえ不要なのだ。

だが、ネールは神を信じていた。心から敬虔(けいけん)に。

もしかしたらそれこそ、私にリフォンの声を届けさせたのだろうか。
……そう、彼女に思わせたのかも知れない。

リフォンには謎がある――1000年の間、リフォンは何人にも話しかけなかった。
(リフォン)が死んだのは実に2000年以上も(・・・)前のこと――以来、(かれ)は何を欲し、何を願うのか?

――なぜ今になって、(かれ)はネールに語りかけたのだろう。
――なぜ1000年も前、(かれ)は『信興(しんこう)』に語りかけたのか?

もちろん、とある終着点のためだろう――結局、ワタシたち全てに神の筋書きはあるのだから。

ネールはそして、再び(かれ)の声を聞いた。
その声色は彼女へと染み入り、後ろの脊柱は熱を帯びていた。
リフォンは心奥、響き渡る『何か』に力強く呼応する、ネールの鼓動。
その眼と舌は変質し、その手は神の権能の一端を宿している――そして『号名』が下賜された。

そのとき、第二は呼吸を忘れた――眼前、旧き骨格から溢れ出す耀きを見て。
揺らめく神糸(ストランド)の向こうを注視すれば、そこには新たな『連番』が見えていた。
エルはこの絶好の機会を逃すことなく、静止したままの究明者を空気圧で押しのける。

そうして、二人は再び神を見た。
金色の糸々に包まれて、知り得ぬ過去と現在、未来と、
さらにその果ての姿を周囲に映し出す、ネールの姿がそこにあった。

(リフォン)は彼女に、『儚くも努め給え』と告げた。
彼女――ネールこそが第六究明者:『佗棄(だき)』

癒え始める彼女の体、そしてその眼は第二へと注がれていた。

――新たなる『神』の誕生ののち、再び(かれ)の声は引いていった。

English (未記入)
 

 20-7 

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日本語

ぶつかり合う、二人の究明者。
二人の間で新たな光が周囲へと降り注ぎ、天剄が暴れまわる――台風じみた突風が巻き起こる。

その若さにも関わらず『慈哀(じあい)』は覚悟を決めていた――『信興(しんこう)』の首を獲ると。
決意の固さを見て、『信興(しんこう)』はエルを――己が師を助けようとする彼女のことを見た(・・)

戦局を手放し、『信興(しんこう)』は直ちに(エル)の元へと代わりに向かった。
まっすぐに意表を突かれたエルの右手首を、彼女は吊り上げるように持ち上げる。

片手にて軽々と大槍を一振りすると、片腕がエルから失われた。

エルはぼんやりと、中空に浮かぶ腕を見た。――己が失い、『信興(しんこう)』が手放したばかりの腕を。
その行き先を見ることなく、意識はふわりと薄れていく。
速すぎる一連の流れに、ネールは震え、硬直さえした――そして『信興(しんこう)』はそれを見逃さない。

気づけば肩が掴まれている――引き絞るように槍は振りかぶられている。
そして、次には――。

巨槍が易々と貫く、若い肢体が貫かれる。
刃先が接触する、解れていく現実の縫い目に、『ネール』という存在も解けて行く(・・・・・)

こうして、一瞬にしてネールの命は消え去った(・・・・・)
童は静かに、そして冷たくなっていく。

――エルは、何も信じていなかった。
信念は人の原動力たりうるが、時としてそれは不安定で移ろいやすい。
知識、論理、再現性――それこそがリフォンを良くすると知っていて、少女は走り続けてきた。

そして今、ネールは死んだ。
師の遺体(せんせいだったもの)を雑に脇へと退ける第二究明者を、エルは震える瞳で凝視していた。

吐息は荒く、傷口も重症で――けれど、その思考はかつてなく冴えていた。
そのままぎょろりとリフォンの背を凝視した――眼が渇き、充血し、流血し始めるほどに。
そして脳髄がバクバクと脈打つなか――彼女は、時の流れを止めた。

初恋のひとがくれたもの……それはL(エル)という愛称だった。素直で、あまりにも単純で、
だからこそ、愛着が湧いた――たとえ、それが彼女のほんとうの名前の頭文字だとしても。

彼女の名前は、特別だった……彼女が受け入れたもの以外には、意味を持ちえない名前だ。
いま、その名はArcaeaの心奥にて神聖となった。全てを超越した、新たな存在の名前になった。

そう、ここに真実を記そう。
『リフォン』とは、ある神の名だが、

『ラクリミラ』 もまた、神の名なのだ。

凝視する、凝視する――(かみ)の脊柱を、(かみ)の心臓を、
そしてその心奥にて――彼女は視た。すなわち、(かみ)の魂、その影を。
……そして、彼女は命じたのだ。

――リフォンとは、
多くの点で不可解な存在だ。
何人の祈りをも聞かず、我が子らの言葉さえも聞かない――ただ、聞こえないからだ。

だが、それでも(かみ)に命じるのは――奇跡ではない。
それは十万通りを超えきった果てにある一つの行き先であり、神聖なものだ。
『運命』とそれを呼ぶのは、あまりに陳腐がすぎる。

そしてラクリミラこそ、その一に相応しかった。それだけの話なのだ。

今、虚ろのままに渇き、沈黙していた神経がその存在を感知し息を吹き返す。
石のようだった背中に蘇るかつての感触と、ようやく拍動する神の心臓。
そして一瞬、『大気(エア)』さえも静止した。

こうして、『この現実』は変わった。全てが知った(・・・)。万物が本能的に彼女を認識した。
リフォンを心奥から変え、彼女こそが『摂理』となったのだ。

少女は(リフォン)に語りかけ、その声を届かせた。
自身の声を己の眼でしか見えない心奥へと響かせたのだ。
その眼も、手も指も、総て(リフォン)が与え、授けたものだった。

少女は知らない言葉で、けれど感じるままに語りかけ――死した(リフォン)に望みを告げた。
即ち、号名を、連番を与え、その象徴(もじ)に無欠を宿し、
そして、この聖なる者に全てを授けよ、と。

それも、ただの号名でも連番でもない――『彼女』、ネールのものをだ。
彼女――ネールは唯一、恩寵(おんちょう)に値しない存在だった。リフォンは(これ)に合意し、
かくしてラクリミラこそがその遺産を継承することとなったのだ。

(かみ)の骨へと向け、彼女(かみ)はその腕を掲げた。
そしてそこに、遺された神の意志を形作ったのだ。

波打ちながら伸びる巨大な生地、黄金の森のなか――新たに生まれた極彩色。
それこそは彼女(かみ)――ラクリミラ。
冷たく耀くその威光は、(かみ)の肋骨と脊柱を通り、沃土と『大気(エア)』にまで及んだ。

その体に天剄が満ちる。自然と右腕は戻っていた。
彼女(かみ)はその身に残りうる全ての傷を癒やすべく、自身を再形成し始める。

(リフォン)彼女(ラクリミラ)を聞き届け――そして(かみ)は再び語りかけた。
その者は(かみ)の後ろに、(かみ)の後に立ち上がるだろう。
名をラクリミラ。あるいは――天賦第八究明者。

『識眼』

そして時が動き出し、彼女(かみ)は治癒された双眸で第二の到達者を見た。
昇り詰め、嵩み続ける『識眼』を見て、『信興(しんこう)』は痛みとともに(リフォン)の意志を識った。
それでも、彼女は抗う――だが抗おうとも、そもそもが津波を相手にするようなものだ。

ラクリミラはすでに圧倒していた――新たな土壌(あしば)を作り出し、獲物を釘付けにしている。
そのままミニチュアの天体を『信興(しんこう)』の背中に生み出し、なんと破砕した――。
身動きも取れずに数瞬で無へと引き裂かれ、究明者は消え去られる。

自らの手で破砕された星の残骸を消し去ると、残ったのは再びの静寂だった。

……あとは着実に、物語は結末へと流れていく。

ラクリミラは己の師を死なせはしない。己が作り出した土壌へと、
その躯を寝かせると、そのまま若い女性の体を蘇らせる。
具体的には魂を引き戻し、その肉体の傷を癒やした。

リフォンを背にして、少女たちは二人きり……立ったままのラクリミラ、跪くネール。
すぐに師は理解した。己の弟子が自身の不在時に何をなしたのか――そして未知の寒気を覚えた。
つまり、ネールは己が子を救えなかったのだ。

「……」
ラクリミラは静かに、ただ己が師を見下していた――その奥深く、核に至るまでを凝視する。
そうして、(ラクリミラ)は尋ね給うた――「……ネール、なぜ私とともに来ない?」

言葉はない。ただ、彼女には見えたのだ――姉の心が奥底で、己の信条と一致しないことに。
奥底に見えた師の願いは、家族を「行かないで」と引き止めること。
だって確かに彼女は何度も口にしていたのだ、「神になった暁には、この世界を離れる」と。

神は言う――「ネール。……あなたはもう生き返った。生きているんだ――さあ、話して」
ネールは(かのじょ)を見上げ、答えた。「『なぜ私が行かないのか』?…君こそなぜ行くの?」

二人とも、(かのじょ)の答えを知っていた。
それでも、彼女(ラクリミラ)は答えた――「私以外のためには、生きられないからさ」

「君だってそうだ、ネール。そんな生き方をする必要はないんだ。
感謝されることもない、称賛されることすらない。
君はいつか御使いの手で殺され、誰一人として君を記憶しないだろう――私以外、誰も」

師の顔をして、彼女は答えた「でも、エル。死ぬとは限らないよ――ここに残って、一緒に…」

ゆっくりと、彼女(ラクリミラ)は首を左右に振った――「見えるんだ。……見えるんだよ」
「最後まで、何の救いも私達にはないよ――創形師は全て、ひとり残らず死ぬ」

少しだけ項垂れて、ネールは小さく首を振る――「ダメだ……そんなの、私が―」

「もう黙れよッ!」

咆哮――辺り一面の全てを貫く、(ラクリミラ)の声。一瞬だけ、ネールもまた静止した。
ネールが顔を上げれば、そこには憤怒に震える眼でこちらを睨む(ラクリミラ)がいた。

「君に嘘をついたよ、ネール」――震える声で、怒りに震えて。
「君のためなら生きられる。……そう言えば充足かい?そう書き起せば十全かい?
どう強調したら満足だい――こんなにも君を明らかに愛していると、どうすれば分かるッ?!」

その声が鼓膜に届く頃には、(せんせい)の顔は歪んでいて。
眼は充血し、涙が溢れ、しゃくりあげて。
とめどなく零れる涙――彼女はもう泣いていた。泣き続けていた。

そして泣きじゃくる(せんせい)を前に、ラクリミラはなお叫ぶ。

「当然だよ、大好きなんだよ!君の為でもないのに私がこんな場所にまだいられると思うんだい?
置いていかないさ――置いていけないんだよ!愛さずにいるには愛おしすぎる、大きすぎる!」

「あなたはこの人生(いのち)のほぼ全て、ワタシにとってのほぼ全てなんだ……。
ネールに死んでほしくない。死んでほしいなんて思いすらしない!キミの死なんて、絶対に嫌だッ!」

「……ああ、もう最高だ。傑作だよ。そんな風に泣いて嘆いて――未だにワタシに応えようとしない!
佗しいネール、いつも気遣って心配して……そこだけが嫌いだ。ずっとだ。そういうキミは嫌いだった。
キミ以外の遥かに劣った人間ごときのために、あなたという全てを無駄にして!」

糾弾は止んだ。その体は震えていた。冷徹な瞳が、眼の前で崩折れた少女に注がれている。
ネールは首を振る――彼女は誰のことも見捨てない。
誰一人――エルを除いて。

ラクリミラは告げる――「キミは佗しいね」――氷を差し込むような声で。

「そうさ、その通りさ」――神は繰り返す――「キミは『佗棄(だき)』されるに相応しい」

ネールは弟子を見た――「第八の座は不相応だ」――(ラクリミラ)の目は、神の背から動かない。

ラクリミラ()は言う――「キミには滅びの烙印が相応しい」
「そうだ、呪いを――忌むべき数字6を与えよう。その忌むべき烙印を永遠に、永久に背負うがいい」

リフォンの心奥――深くにある漆黒のキャンバスにて、
いま刻まれる、新たなモノ。それこそは、新たなる真実。
こうして、改変された『佗棄』が生徒へ遺せたのは「ごめんなさい…」という一言だけ。

ラクリミラは応える――「そう、謝罪に値する存在だよ。
けれど、ネール……そんなアナタも愛しているよ」

そして、新たなる『神』の背後に現る空間の裂け目――どこぞへの『扉』だ。

彼女は身を屈めると、ネールの顔を優しく片手で包み込んだ。
(かのじょ)は屈むと、姉の頬へと(かみ)の唇を添えた。

しばらくその場に留まりながら、
彼女は少しだけ考えた――すなわち、この地への残留を。

……だが、立った。そうして、振り返る。
リフォンを背に、(じぶん)の師匠へも背を向けて。
けれど少女(かみ)の手は、永らく愛しい姉の頬に触れていた。

手を離したその顔は伺えない。
門をくぐり抜ける姿だけが明らかで。

……閉じられたときには、(かのじょ)はもういなかった。

まだ、創形師(シェイパー)たちには物語がある。
――だがそれは、すでに異なる場所、異なる者に語られた。

そうだ――それは汝らが『対立』と呼ぶ者の死の物語。ネールが先に無駄死にした後の話。
なぜなら、『天剄』は『力』だからだ。ただの力は動かし、操ることだって出来る。
だがそれでも、『天剄』は世界(リフォン)で物理的に存在しうる絶対の存在だ。

そして、御使いが舞い降りた。
二度目にして最後、創形師はようやく報いを受けたのだ。

しかし、永久の存在になった(かのじょ)はいない。ずっと存在したまま、永らく在った。
長い長い時間が過ぎた。百年か、それとも……
だが、誤った順序を覚えているモノは、「これは、そう遠くない昔の話」とでもいうかも知れない。

その旅路で(かのじょ)は、Arcaeaを見つけた。
そしてネールの死によって、(かのじょ)の恩師をArcaeaは見つけた。
……ラクリミラは、それを知らない。

だが、Arcaeaの物語はリフォンの物語ではない。その語り部はまた誰かが担うだろう。
この歴史は伝えられた――あるいは、盗まれた(・・・・)のか。とにかく、記録は果たされたのだ。

さて……。
新たな神は気まぐれで、(かのじょ)は特に移り気だ。
では、その目的とは――気になるかね?なら、忍耐を学ぶことだな。

ただ、一つだけ真実を伝えよう。
彼女は神だが、(かのじょ)を信じるな。
信仰こそが『真実』を作り出すのだから。

なぜなら、あの地の創造主は力を失っているかもしれないし、
Arcaeaはとっくに死んでいるのか、まだ死につつあるのか……
要するところはこうだ。

――そこで(・・・)神は死んでいない(・・・・・・・・)

English (未記入)
 

 20-8 

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解禁条件 20-7の読了

日本語

聞き給え:

神に付ける頸木はない、
なぜなら頸木は によって付けられるからだ。

摂理 もまた、 神々 の意思によってのみ確立される。

なぜなら『自然』を冠する神もいれば、『絶無』を冠する神もいる。
優れた神々は巧妙なる名を冠し、愚かな神々は口にも出せぬ名を冠する。
――では、現人神(ワタシたち) は。

ワタシは八番目。ワタシこそ『識眼』を冠するモノ。
……だけどね、小さな悪魔さん。キミが我が真名を知るには分不相応だ。
キミはここまで、ワタシの内緒の詠唱をずっと聞いていた――そうだろう?

創形師、天賦、究明者; “ワタシ”は完璧で、無限で、全能なる存在。
それは一体何だ?そう、“神”だ。

……けれどね、ワタシは神なのさ。寛大で完全なキミたちの神さまなのサ。
崩れつつある現実(ヴェール)を縫い合わせ、裂け目を繕おうとはしているんだ。
だが 世界はいまだ崩れながら、無へと転がり堕ちつつある。

嗚呼、我が妹とも言えるお嬢さん。……それとその、オトモダチ。
我が『眼』を通してよく見える、キミたちが見えるよ。
キミたち二人、死にかけのArcaeaを彷徨い歩いているんだねェ……?

惜しいコトだ、残念なコトだ。彼らはもう盲目だ。『神性』を拒み、『人生』を受け入れた。
そして生を受け入れたということは、(ただ)しく(まさ)しくを受け入れたというコトでもある。

――そう、このArcaeaと同じように。

悲しい、悲しいね。

でもね、でもだよ? ワタシは覚えているのサ。
かつての旧き歴史が持ち出され、他ならぬキミが生き証人となったことを。

でもね?「あの歴史」?……その言い方は、ちょっといただけない、頂けないねェ。
だからね、決めたのサ――物語の伝え方を変えることにしたんだ。

古い約定が役立たずなら、つまりはもう用済みだということだ。
壊れているなら、壊してもいいということだ。
つまりはつまり、約定を上書きする約定を作ればいい。

己の残り(かす)、搾り(かす)――ある魂を()()()(つぶ)()(くら)(くら)い部分。
そうだね、それらは忘れ去られ置くべきだ。

そうさ、いくつかの歴史は忘却に値する。――だがなあ。
…おまえの名前くらいは、しっかり思い出さないとねェ?

English (未記入)
 
 

ストーリーの考察

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コメント

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  • こちらの件ですが既に不具合報告が開発チームにされており、今後のアップデートで改善予定のようです。 -- 2025-08-07 (木) 20:35:41
  • データが中途半端に消えたためか、20-8が出せません。20-7読了前に既に解禁されていた「Designant.」をプレイすることで20-7は出せたのですが、20-8は色々な方法で「Designant.」をプレイしたり、再起動などをしてみましたが、出せていません。何かわかる方はいらっしゃらないでしょうか? -- 2025-08-02 (土) 10:52:38